死生命ありとは、生きるか死ぬかというのは天命によるもので、人の力ではどうすることもできないということ。また富貴天にありとは、金持ちになるとか偉くなるとかというのも、天命によるもので自分の力ではどうにもならないという意味です。
このように世俗的な成功というものは天の配剤(はいざい)なのですから、あまり考えすぎないことが大切ではないでしょうか。能力があるからといって必ずしも成功するとは限りません。逆に能力がなくても、成功を収めるという人もいます。
世俗的な成功というものをいちいち気にすると、限りがないものです。また気にばかりすると、心の安寧を得ることができなくなるでしょう。
私が野村證券で働いていたとき、よくこんなことを聞かれました。同期から「ボーナスが出たけど、北尾、いくらもらったんだ?」と。しかし私はこう いったことに全く関心がありませんでした。余計なことに関心を持たないで、与えられた仕事を一生懸命に行う。これが一番大事なことだと思うのです。働くと いうことに安易な方法はありません。なぜなら、仕事というものは誠実にコツコツと積み上げていかなければならないものだからです。
また「積小為大(せきしょういだい)」という言葉があります。小を積み上げて大をなす――という意味です。日々の小さな努力の積み重ねが、いざと いうときに大きな力となっていくのです。この言葉の通り、Aさんもまずは与えられた仕事をコツコツときちんとこなしていってください。そして仕事をしてい く上で、「もっとこうすればいい結果が生まれるのではないか」と常に考えてください。そうすればいずれ、大きな仕事を成し遂げる日がやって来ることでしょ う。
書店にはハウツーもの関係の本がたくさん並んでいます。しかし役に立たないモノが多いことも確かです。そういった類の本に頼るのではなく、むしろ 精神の糧になる本を読んでみてはいかがでしょうか。例えば自分が悩んでいるときに論語でも読めば、きっとその状況に合った心に染み入るような言葉が見つか るだろうと思います。